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ふきげんななめ

ぶちまけてるだけ

太ももを切った

いわゆる自傷行為の話。

高校生くらいのときから切りたくなる衝動はあった。でも世間体とか、親が悲しむ顔を想像してやめた。その結果内臓がだめになった。

 

大学生になってピアスをたくさん開けた。耳たぶに5つと軟骨に1つ。痛かった。本当はそんなに開けなくても良かったけど、たくさん穴が開いてると強くなった気がした。着る服もパンクロック系にしたら更に強くなれた気がした。今思うとイタい。しかし大学で友達が全く出来なかった私はそういうもので身を固めないとやっていけなかった。「1人でも大丈夫」な強い人間になりたかった。

 

社会人になって耳たぶの穴はふさいだ。勿体無いから軟骨の穴だけは残した。

若い人がほとんどいない職場だった。10年ぶりに新卒を採ったと聞いた。同期とは気が合わず、お局たちから煙たがられた。かろうじてブラックではないけども、ぎすぎすした所だった。働いてる間に何人もの人が辞めた。私よりずっと前にいた部長も、私より後に入ってきた中年男性も、同期も、私を執拗に嫌っていた女性もどんどん辞めていった。

 

結局、私はその職場に5年半いた。仕事は昨日辞めた。1年前にパニック障害の発作で倒れて以来、通勤電車が怖くなっていた。会社にいるのがストレスだった。5年いても私は先輩の使いっぱしりで、会社全体の便利屋だった。小さな会社なので直属の後輩はこの先も入る気配がなかった。ただただ辛かった。

精神科にも通っているが、病状はあまりよくならない。何回か発作で過呼吸になった。薬を増やした。外出先で目の前が真っ白になり、ひどい動悸と嘔吐感で倒れたのは2回。もうだめだと思った。

3ヶ月休職して、そのまま辞めた。昨日付で退職した。慇懃だった先輩が妙に優しくなっていた。社長はお守りをくれ、深く頭を下げてくれた。定時間際に挨拶に行ったので、諸事片付けてからフロアに出たらほとんど社員は残っていなかった。残っていた社員のところを回ったが、私がいてもいなくてもどうでもよさそうだった。

 

辞めたら楽になれると思っていたが、そうでもなかった。お金が足りない。すぐに働ける状態ではないので雇用保険が貰えない。傷病手当金の申請はぎりぎりで間に合ったが、少額しか貰えないだろう。家賃等差し引いたらぎりぎりだ。医療費もかかる。年金と保険料と税金を納めないといけない。奨学金の返済は一時猶予をお願いした。

 

そのタイミングで、数年仲良くしていた友人からツイッターでブロックされた。私も彼女もいくつかアカウントを持っていたが、鍵のついていないアカウント以外は全てブロックされた。何で全部ブロックしないんだ?と後々不思議に思ったが、彼女が好きなゲーム作品のライブチケットを私の名義で当てていたのを思い出した。発券はまだ先である。合点がいった。

 

たまたま彼女と会う約束をしていたので、思い切って彼女に聞いてみた。LINEやツイッター上で聞いてもよかったが、こういうのは面と向かって話さないと相手の顔色がわからない。言葉の意味を湾曲してとられても困る。

「私、何かしちゃいましたか?」

聞いたら、彼女は曖昧に笑うだけだった。すみませんと、謝られた。ブロックされた理由はわからなかった。

「あの、後学のためにというか……もし不快な思いをされたなら、どういった点か教えて頂けますか?」

思い切って私は更に聞いた。彼女はやっぱり苦笑して、すみませんすみませんと繰り返す。

ツイッターをどう使うかは自由ですから。話したいように話してください。◯◯さん(私)のように愚痴を吐くことですっきりする人もいるし、××さん(共通の友人)のように全く愚痴を言わない方もいるじゃないですか」

質問と答えがちぐはくだった。ただ、私がツイッター上で愚痴を吐いたことを遠回しに嫌だと言われたことだけはわかった。前に「辛かったら吐いていいんですよ」と、彼女は言ってくれた。吐いたら、ブロックされた。

「いや、わたし実家暮らしで、課金しまくりだから」

ふと、彼女が言った。それが理由だった。その数日前に私は鍵アカウントで「親の金で暮らして遊んで生きているくせに家族への文句が多い。きっとかつての私もこんな風に見えていたんだろうな」と、とあるフォロワーについて愚痴を吐いていた。しかしそれは彼女のことを指したのではない。それに、私は大っぴらにその愚痴を吐かなかった。こっそり愚痴を吐けるように、掃き溜めならぬ吐きアカウントを作っており、そのアカウント宛へツイートしていた。私のホームを見なければ目につかない愚痴である。それでも、見ようと思えば見られる愚痴だ。私は多分、誰かにそれを見て欲しかった。本当に隠したい話なら、誰もいない掃き溜めアカウントで独り言をつぶやけばいいからだ。

彼女と話してる間は頭が真っ白になり、私も平謝りしていただけだった。彼女の何気ない一言に理由が潜んでいたと気付いたのは、帰宅して眠り、翌日湯船でぼんやり思案しているときだった。だから私は彼女に弁解も出来なかった。あなたのことを言ったんじゃないよ、と伝えたかった。が、私がそういう人に嫌悪感を抱いているのは事実なのだ。今回彼女のことを指したのでなかったにしろ、彼女は「実家暮らし」で

課金という「遊び」をしている。家族への不満もよく口にしている。

ツイッターだけが付き合いじゃないので、これからも仲良くしてください」

と言われて、私は笑い、頷いた。しかしそれはもう無理だと思った。

ついカッとなってブロックしちゃったんですけど、◯◯さん気にしぃだから……」

と、何気ない彼女の発言を反芻する。確実に、彼女は私に対してカッとした。私がつぶやいた話に立腹した。もう愚痴は言えない。彼女の前では自分が感じたことを吐けない。

唯一彼女と繋がっていたアカウントから、私は彼女をブロックした。そして鍵をかけた。彼女の言葉を借りるなら「ツイッターだけが付き合いじゃない」ので、これでも会おうと思えば会える。多分、もうないだろうけれど。チケットだけはきちんと渡す。それできっと、おしまいだろう。

 

愚痴を吐いても許される人と、そうでない人は何が違うのだろうか。私は間違いなく後者だ。実は、こういうことは何度かあった。3年程前にも同じようなことで当時遊んでいた面子との繋がりを絶った。こう何度も起こるくらいなのだから、私が悪いのだろう。でも、私以外にも愚痴を吐いている人はいるのに。彼女たちが許されて、私が許されないのは何故だろう。はなにつくのか。不幸自慢のしすぎか。人望のなさ、才能のなさ。そういった、悲観的な性格をしているからだろうか。

 

彼女と私の共通の友人に、自傷行為をしていたと思われる子がいる。両手首に無数の傷跡があった。彼女は、その友人のことをかわいいかわいいといって好いている。確かに、華奢で天然でふわふわした洋服がよく似合う、かわいらしい子なのだ。見た目も大事なのだと思う。私は中身もさることながら容姿もなかなかのブスだ。

そうだ、切ろう。

と、私は思った。頭の中にはその子の姿があった。傷があって、危うげで可哀想でかわいい子。仲間内からかわいがられているあの子。あの子が仕事や家族の愚痴を吐いても誰も責めない。誰もが気遣いのリプライを送る。

風呂からあがって、私は体を切った。手首はやめた。なるべく見えないところにしようと、左側の内太ももにした。筆箱に入っていたカッターを折って、新しい刃にした。衝動的ではなく、計画的で妙に冷静だった。消毒液で皮膚とカッターを拭い、スッと何本か線を入れる。痛みはあったが、思ったほどではない。というか、ズタズタに切り裂く勇気がなかったので、痛いわけがない。本当に切れてんのか?と目を凝らしてみたら、数秒後に血が滲んだ。なんだか呆気なかった。また消毒液で傷口を拭い、しばらくティッシュで抑えていたらあっという間に血は止まった。気持ちは少し晴れたが、物足りなさが残った。

 

翌日、コンビニで新しいカッターを買った。100円ショップのものより、きちんとしたカッターを使った方がよく切れると思ったからだ。帰宅して、さっそく太ももを切る。昨日よりも付け根に近い部分を切った。短パンを履いてもバレないくらいの位置に、何本か傷をつけた。痛かった。さすが良いカッターは違う。昨日よりも躊躇いがない分、私も力を入れたのだと思う。傷口から血が滲み、玉の雫になった。慌ててティッシュで抑えて、消毒した。大きめの絆創膏を貼って、眠った。太ももはずっと、ジンジンしていた。傷口が痛いのだと思い込んでいたが、実際は絆創膏でかぶれた部分が腫れていただけだった。傷は簡単に塞がった。かぶれた所を掻き壊して皮膚から血が滲む。そっちの方がよっぽど痛くて笑った。

 

そのまた翌日、実家に行った。たまたま姉と2人きりになったので私は自傷行為をしたと話して太ももを見せた。そうしたら泣かれた。私があれだけピアスを開けても何も言わなかったし、姉だって軟骨やらヘソやらにピアスを開けている。それと何が変わらないのだろう。申し訳ない気持ちと、興醒めしたような感覚が混ぜこぜになる。

「どうしてそんなことをしたの?」

と姉に問われ、どうしてだろうと思った。かわいがってほしかったし、心配してほしかった。自分を痛めつければ、どこかの誰かを不快にさせた贖罪になるのではないかとも思った。でもそんなのは全部後付けの理由かもしれない。私は「狂っている自分」を演出したいだけなのかもしれない。

私は狂っているから、近づくな。離れるくらいなら、最初から近づくな。

そういう思いは確かにある。まぁ、それならばもっと目立つ位置を切ればいいのだろうけど。中途半端に心理学をかじったせいでイマイチ素直にメンヘラになることも出来ない。だって、手首を切るなんてあからさますぎじゃないか。そんなことを考える時点で私は別に病んでなんかないと思う。

ピアスを開けたのも「強い自分」を演出したかっただけだし、私が自分の体を傷付ける理由は、ただの演出なんだ、多分。「自傷行為  理由」とか「自傷行為  心理」で検索したページを見てみても、なんとなく共感できないというか、そう言われてみればそうかも?みたいな、無理矢理自分を納得させるような理由がずらずら書いてある。本当に何で切ったんだ、私。

 

「もうしないで」と姉に言われたが、するかどうかは私自身もよくわからない。ただ、私が私という存在をもっと大きく強く見せたいと思ったら、また切ってしまうかもしれない。痛いのは嫌いだし、別に快感でもないのだが。

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